ポエカフェ白秋&杢太郎篇

キリ番80回目の本日は4回目ぐらいの北原白秋とこれまた初めてではない木下杢太郎のコンビではなから時間内には終わりそうにない予感。そしてテキストの枚数でもう確実とひそかに思うのであった。
まずは木下杢太郎から。本名は太田正雄。彼は詩人で画家で劇作家で小説も書き、とどめの肩書に医学博士というものがつくのである。医学方面では杢太郎よりもこの本名の方が有名なのであるが、どんだけマルチやねんと毎回思う。
1885年(明治18年)兄2人姉4人の末っ子として産声上げる。白秋と同い年生まれというのが運命だねぇ、赤い糸ならぬ、パンの糸。
場所は現在の伊東市の雑貨問屋「米惣」
1898年13歳ー両親は医者でもないのに、正雄を医者にしたがるが、親の心子知らずで正雄は歴史、文学、絵画に夢中でゲーテツルゲーネフゴーリキーらに傾倒し「文庫」「新声」「明星」などを愛読。夏目漱石の「坊ちゃん」でも中学校の職員会議で配布されるこんにゃく版(実際はゼラチン、寒天などを利用)雑誌「渓流」を仲間と刊行するも本名でやったため、親類からブーイングの嵐。この頃から危険と感じたか木下杢太郎というペンネームを使いだす。
18歳(1903年)中学を卒業し画家を志望するも姉のきん、両親の強い反対で美術学校へも行かせてもらえず第一高等学校第三部(ドイツ語主体の医学志望部)に入学。わざと落ちればよかったのに・・・とも思うがそんな恐ろしいことはできないか。真面目な杢太郎だもんな。この高校3年間は進路のことで悩む、悩む、悩む。
そして大学も医科大学なのだ。これまた猛反対に遭ったのだろうか。もし家族の反対がなかったら医学博士太田正雄は存在してなかったかもしれない。
1907年(明治40年)22歳ー友人、長田秀雄の紹介で与謝野鉄幹主宰「明星」の同人に。小品「上記のにほひ」を本名で発表。って大丈夫やったんやろか。医大にさえ進めばええわってことか?
夏に与謝野鉄幹、白秋、吉井勇、平野万里と九州へ。これがあの有名な「五足の靴」として「東京二六新聞」に覆面連載。明治41年23歳、このあたりは文芸活動、ばりばりの杢太郎なのである。まずは新詩社を脱退し、美術雑誌「方寸」の発起人となる。そしてそして耽美交流サロン「パンの會」を石井柏亭山本鼎、白秋らと開始。杢太郎、西洋のカフェ風の会場を探すのに躍起となる。今日のパンの會のテキストを是非とも親類縁者に布教せよとの指令がでております。でもこれ、学校にばらまいたほうがええような気がする。ポエカフェを授業でやったらええねん。「パンの會」を知ってる小学生なんていたら先生びっくりするやろな。
このパンの會、創立メンバーも凄いけどあとからあとから参加する顔ぶれのすごいこと。上田敏高村光太郎永井荷風谷崎潤一郎などなど。明治44年まで続いた伝説のサロン、パンの會。
24歳(1909年)新文芸誌「昴」が平野万里、啄木、吉井勇の3人が共同責任編集で発刊。この頃から木下杢太郎の筆名を主とする。26歳で東大医学部を卒業するまでが杢太郎の創作活動のピーク。そこから杢太郎先生はペンももつけど皮膚科学研究をわが道と定めるのだ。医学と文芸の両立だけでもすごいのに杢太郎、58歳になると自ら「百花譜」と名付けた植物写生を始めるのだ。杢太郎は最初、画家になりたかったのだ。
植物、花など872葉!すごく緻密に描かれていて、植物好きならたまらない作品集です。テキストにもカラーで少しあるんだけど、ワサビが特にまぁ、素晴らしいなと思いました。あのとげとげのとこね。もうまるでそこに本物のワサビがあるとしか思えない。
さぁ、お次は白秋です。白秋は福岡の柳川出身。父は酒造を本業とし、白秋はとんでもないぼんぼんです。なんてったってトンカ・ジョン(良家の長男)ですから。小学校が家の続きとか隣だったとかどんだけ家でかいねんっていう家です。15歳(明治32年)文学で志を立てることを決意し、16歳で初短歌創作したと思ったら17歳でもう「福岡日日新聞」「文庫」に投稿。頭角を現す。第一詩集「邪宗門」を出したのが明治42年(1909)順風満帆かと思いきや、この年の末に実家が破産。それでも隠してた小判(どこに!)を健気にも仕送りしてた実家。この「邪宗門」があの北原さんとこの坊ちゃんが本を出したということで借金の返済を待ってもらったとか。本を出すということが当時、すごいことだったんですねぇ。ところがどっこい白秋に魔の手が・・(笑)1912年(大正元年、明治45年)人妻松下俊子との恋愛問題で松下の夫に告訴されまさかの刑務所拘留。白秋、この経験が深い傷となる。しかもこの二人、結婚したはええけど2年もせんと離婚ってねぇ、今やったら間違いなくワイドショーネタやで。
白秋の業績は今回はさくっと飛ばします。だってねぇ、生前の刊行詩集が26冊、歌集15冊。童謡集32冊。歌謡集20冊。散文集29冊、ほかに論著14冊。って全集買ったほうが楽かもと思ってしまうくらい多産作家なのだよ。

白秋はこういう歌のほうが私は邪宗門より好きです。邪宗門は難解なので今回もパスします(笑)
君かへす朝の舗石さくさくと林檎の香のごとくふれ

情景が目に浮かぶようできれいですね。不倫してた頃の歌なんですけどね・・・
白秋、この不倫事件のさいちゅうも段階を追って歌にするという面白いことやってます。
一列に手錠はめられ十二人涙ながせば鳩ぽつぽ飛ぶ

これ、鳩が出てくるまでしんみり読んでたのに鳩ぽつぽ???雰囲気ぶち壊しでは?(笑)あるいは健気に明るく笑い飛ばしてよという意味でしょうかね。

お次は杢太郎をひとつ。

「珈琲」
今しがた
啜って置いた
MOKKAのにほいがまだ何処やらに
残りゐるゆゑうら悲し。

この出だし、いいですねぇ。コーヒーが飲みたくなるなあ、休憩しよ(おい)喫煙家ならさぞかし煙草が吸いたくなるでしょうねぇ。