冬の鷹


吉村昭新潮文庫
「解体新書」を訳した前野良沢の物語である。絶えず、杉田玄白と対比されつつ、語られていくのが面白い。この二人の名前はセットで歴史の教科書にもでてくるだろう。だが、この「解体新書」の著者は杉田玄白とあり、どこにも前野良沢の名前はない。この本を訳したのは前野であり、杉田らにオランダ語を教えたのも彼なのにである。まず、この事実に驚いてしまった。完璧な訳でもないのに、名前なんか出せるかと完全主義の前野は100%A型だろうね。
どのように「解体新書」を前野らが翻訳していったかが、作者の緻密な筆さばきでもって、こと細かく明らかになっていく。同じ医家なのに、学者肌の前野に対して、社交的な杉田。前野はこの翻訳から、オランダ語の研究に以後、没頭していく。
光と影とでもいうぐらい、対照的なこの二人の生き方のどちらをあなたは好きになるだろうか。前野と杉田の家族についてもこの本は詳しく述べてあり、これまたとことん、対照的な家族なのが、なんともいえない。
このタイトルが不思議だな。どうして冬の鷹としたのか。再読したらわかるだろうか。