青い棘


講談社文庫。三浦綾子。この人の小説は軽く読んでみると痛い目にあう。戦争小説であり、恋愛小説でもある。戦争とは?夫婦とは?といろんなことを考えさせられる。
舞台は昭和49年の北海道。息子の妻、夕紀子と主人公の邦越康郎がいい関係になりそうでならない。この二人の奥ゆかしい、決して声に出さない関係だけでも読みがいはあるのだがこれだけではないところが
三浦綾子のすごいところで単なる恋愛小説に成り下がらないのがいい。この二人の周囲は騒がしい。特に康郎の娘、なぎさが厄介ごとを持ち込んでくる。でもどこかこのなぎさは憎めなくて
なぎさの夫の佐山兼介、こいつがもうどうしようもないやつで、こいつがでてくるだけでブーイングをかましたくなる。こいつもほんとゲスなんだよなあ。そう、なぎさという妻がいてしかも
加菜子という娘までおるのに他に女作ってしかも中絶させるというね・・・これが物語の一つの柱でもう一つは康郎の戦争体験が大きな柱となって物語を綴っていく。
昭和19年海軍の予備学生だった康郎。康郎には恋人、香川緋紗子がいた。当時、婚約者がいるものは結婚せよと上官の命令で、結婚するも康郎が死なず、戦争のせいで20歳の若さで江田島で緋紗子が死んでしまい、今は後妻と暮らしている康郎。北海道から康郎が勤務している江田島まで空襲をさけながらたどり着いた緋紗子は、「私は日本の滅びを見ているような気がする」という。
そして美しいものがみたいと呉に夜光虫を見に行き、その帰りの船が機雷に触れ、死んだのだ。
この緋紗子に声がそっくりなのが夕紀子なのだ。この二人、共に互いのことを心憎からず思っていて、この二人の心模様があけすけじゃなくて面白い。