ことばの食卓

不忍ブックストリート一箱古本市でチラシを配ったかいがあった。そこでもらったからと見知らぬ方がご来店。ありがたいことである。でもやはり迷われたそう・・・すんません。

「ことばの食卓」(武田百合子ちくま文庫)を読んだ。先月とっくに読んだのだが、感想を書くのに苦戦した。
冒頭を読み出して、平松洋子氏を思い浮かべ、平松氏の存在を教えてくれた元同僚(石田千氏似)を思い出す。
最初の「枇杷」がとてもいい。これだけでこの本は買う価値がある。
「あの人の手と指も食べてしまったのかな」と作者が語るとこで、うならされる。ううむ。
難解な文章というわけではないが、するするーっと読めるかというと、件のような表現にぶつかるのだ。
次の短編「牛乳」もなかなか面白い。「赤ん坊は固いうんこみたいに生まれるのだ」と考えていたという文がある。このストレートさはなかなか出せない。躊躇するとぎこちなくなるだろう。かといって、下品な方向へまっしぐらにいってしまってもいけない。
P16にも乾きかかった湯呑みの中を嗅いで、お尻の臭いと、思う。と出てくる。この人だから書ける表現なのだ。

画は野中ユリで、一番好きなのが、「キャラメル」の挿絵である。
「お弁当」という章では天皇陛下の写真が出てる新聞紙でお弁当を包まないでねとある。時代がこういうとこで現れる。
それにしても作者は食べ物では虚弱というかエライ目にあってばかりいて、その遍歴もすごい。
夜店の腐ったアイスクリームを食べて死にかけるとある・・・おいおい、大丈夫かいなと心配させられる。

感情をだしていない文なのに、感情が伝わってくる、そんな文章なのだ。こういうのを巧いというのでしょうね。