日本の童話 名作選 明治・大正篇

私の数少ない文芸文庫読了本の中でこれが一番面白い。
トップバッターは巌谷小波の「こがね丸」短編集においては、最初のが一番面白い傾向があるがこれもそう。期待もしてなかったが、ずいずいと引き込まれていく。難読漢字が多々出てくるんだけど、ありがたいことにルビが振ってあって、問題なし。この物語にあっては少々、読めない漢字があろうといいのだ、そんなの飛ばしたって、推測で読めるし、ぐいぐいと目が先へ先へと進んでいくのだ。
こがね丸ー舟ではない。犬のお話である。悪者は虎。虎はこがね丸の父を
殺す。で、こういうやつには大体、腹心の部下がいる。でこの部下の狐が非常に悪賢い奴で、ますますこがね丸贔屓に私を導く(笑)
こがね丸は牛に育てられながら、父の仇を討つために武者修行へ。そして最後にはというお話でこれがよくできているんだな。こがね丸を助けるキャラたちも味わいあっていい。少年ジャンプのコンセプトの「友情、勝利」の二つは兼ね揃えているぞ。
テレビ絵本でよく見ていた「一房の葡萄」(有島武郎)も掲載。これ、実に切ないんだよね。私もこの主人公の立場だったら、きっと同じことをする。藤木みたく私も卑怯な人間なので。だけど、この少年を女の先生は辱めることも怒鳴りつけることもなく、優しく包み込んだ。「明日は必ず学校に来るんですよ」と不登校になるかもしれなかった少年を救ったのだ。
一歩間違えば、彼はひきこもりになっていたかもしれない。どうしよう、皆にぼろくそに言われる、行きたくない、という思いが強まって、家から出ることさえ出来なくなっていたかもしれない。
「二人むく助」(尾崎紅葉)これがどうしようもないむく助やなと、なんでわからへんねんと言いたくなるようなお話で、全ては最後のこの一行に尽きるのだ。善人なりとも愚鈍は亡び、悪人ながら智者は栄ゆる世の例。と。どなたも御学び候へとある。そう、なんとパンチのきいた教訓であろうか。
3番手は泉鏡花「金時計」である。主が使用人たちにあることをやらせたいが為にとある嘘をついて、やらせる。その企みは見事に成功したかにみえたが・・・という最後にはすっきりする壮快な物語。
納豆といえば茨城であるが「納豆合戦」は善良な納豆売りのおばあさんを騙し続けていた子供たちの最後やいかにというお話。
まだまだ面白い話はあるぞ。芥川龍之介の「魔術」これも味わい深くていいねえ。
物欲だらけの私には到底できない話であるが、最後にミスラ君は
「私の魔術を使おうと思ったら、まず慾を捨てなければなりません」と言うのだ。はい、私には当分出来そうにありません。
武者小路実篤の「鳩と鷲」も深い。5頁しかない物語なのに、それだけに却って強烈に突き刺さる。
さぁ、あなたはどれが気に入るかな。