仮釈放 


吉村昭新潮文庫
これ、一気読み。数時間で読了。吉村昭、いくつか読んだけど、これが最高にすごい。
綿密にじっくり調べ上げて書いた緻密なあの文章。ややもすれば面白みがかけてしまいがちなのだが、もう、この作品に限っては、むしろ、作者の淡々とした文章、一つ一つ石を積み上げていき、細部まで詳しく書くあの文章が読むものを煽るのだ。途中で中断なんか勿体無くてできん、この主人公がどうなっていくのか気になって仕方がなかった。この作品、主人公のモデルはいなくて、作者の想像らしいと解説に書いてあるが、それ、実在のモデルがいないほうが、すごいわと言いたい。
浮気をしてた妻とその相手を殺し、そしてその相手の母を焼殺した元高校教師の菊谷。無期懲役の刑を受けたが、16年後に仮釈放。仮釈放の可能性のきざしが現れ始める服役12年目から物語は描かれてある。まず、この書き出しの時期が巧い。仮釈放されてからではなく、そのちょっと前のすんなり決まりそうで決まらない。菊谷にしてみれば、仮釈放されないのではなかろうかという恐怖をまず、描いている。